始めに¶
SRIM (the Stopping and Range of Ions in Matter)は, 高速イオンが 材料中を通過する場合の, イオンの飛程, ダメージ等を算出するための シミュレーションソフトウェアです. 1989年の発表から改良を重ね (現在のバージョンはSRIM2013), 現在においても, 多くの利用者があります.
SRIMでできること, できないこと¶
SRIMは2体衝突モデルを入射イオン, 標的材料に逐次的に適用することで, 入射イオン, そして衝突によるはじき出しを受けた標的材料原子の軌跡を追跡する方法です.
以下に, 特徴と利点及び利用の際の注意点を挙げます.
特徴と利点:
- イオンの注入飛程の計算
- はじき出しによるダメージの個数, 分布の計算
- スパッタ率の計算
- はじき出し以外の要因(フォノン散乱, 電子素子能)による エネルギー散逸の計算
- 比較的高速に計算が可能
- 計算に必要なパラメータが簡潔, 具体的でわかりやすい.
- 等々.
不便, 注意を必要とする点:
- 標的材料はアモルファス材料としてモデル化しているため, チャネリング等, 結晶構造に起因する現象を再現できません.
- 衝突の試行は常に初期状態から行われるため, 多数の衝突による, ダメージの蓄積, ミキシング効果は反映できません.
- 欠陥-格子間原子の再結合等, 欠陥構造の挙動に関する詳細な解析はできません.
- 多体現象(高密度の衝突カスケードがオーバーラップするなど)を 再現することはできません.
- 化学反応系によるスパッタリング等, 材料の特性が大幅に変化する過程を 再現することはできません.
このような問題を解く必要がある場合, SRIM以外のシミュレーション手法が 必要になり, 結局のところ簡便さとの兼ね合い(トレードオフ)となります.